大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1443号 判決 1950年11月04日

被告人

山下秀雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人鈴木貢の控訴趣意第一点について。

(イ)  原審第一回公判調書の記載を見れば、検察官は、被告人の犯罪事実を立証するため、他の証拠を提出し、更に(7)奥野龍之助、常川由雄杉山文男の司法警察員並に検察官に対する供述調書各一通、(8)常川由雄の上申書一通、(9)常川由雄に対する裁判抄本一通、(10)伊藤兼吉に対する公判調書謄本一通、(11)杉山文雄に対する裁判公判調書謄本一通、(12)山内新幸の事実上申書一通、(13)被告人に対する検察官並に司法警察員に対する供述調書各一通の証拠調請求を為したところ、原審弁護人は被告人の代理として、右各証拠書類を証拠とすることに同意しないと供述したので、原審は右(7)乃至(13)の証拠書類を除外して、他の証拠につき、証拠調を為したことが記載せられているが右(7)乃至(13)の証拠書類の証拠調請求については、何等かの決定を為したことも、為さなかつたことも公判調書に記載してないことは所論の通りである。而して証拠調の請求があつたときには、刑事訴訟規則第百九十条により、証拠調を為すか又は証拠調の請求を却下するか、決定をしなければならないことも所論の通りである。原審が右(7)乃至(13)の証拠書類の取調請求を却下した旨の記載は、原審公判調書に存在しないけれども、特に右(7)乃至(13)の証拠書類を除外して、他の証拠の証拠調を為す旨決定したところから見れば、(7)乃至(13)の証拠書類の取調請求は、却下したものであることが推認せられるから、却下の決定が全くなかつたと謂うことはできない。仮りに却下の決定をせずに結審した違法があつたとするも、右証拠書類はすべて、検察官が犯罪事実の立証のため証拠調請求を為したところ弁護人の同意を得なかつたものであるから、弁護人としては、右書類を被告人のため有利に利用する考えはなかつたものと認めることができ、原審は、検察官の請求通り、公訴事実を全部有罪と認定したのであるから、右証拠調却下の決定を遺脱しても、判決には影響することがないものと認めることができる。

(ロ)  次に原審は、被告人の同意がないのに被告人の前科調書、起訴猶独調書各検察事務官作成の証拠調を為しているが、右の書類は、刑事訴訟法第三百二十三条第一号の書面に該当するものであるから、被告人の同意のあるなしに拘らず、これを証拠とすることができるものである。従つて、原審がこれが証拠調を為したのは、違法ではない。

(後略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例